• 井上麻子 /Asako Inoue

ペラペラの楽譜一枚で渡米。"日本で生まれた日本人俳優"というアイデンティティを大切にしたい。

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現在ニューヨークを拠点に活躍するミュージカル俳優・撫佐仁美さん。劇団四季で5年間経験を積み、2013年に夢見ていたブロードウェイへ挑戦するべく渡米。日本人俳優としてアメリカのショービズ界のトップで戦い、さまざまな逆風の中を猪突猛進する撫佐さん。彼女の役者人生や新しい挑戦についてたっぷりお話を聞きました。読むだけで、心がなんだか熱くなりますよ。




劇場が開かないニューヨーク。オンラインでの挑戦。

◆ 今回の帰国はなにか目的があったんですか?


『えんとつ町のプペル』の映画を観るためです。昨年同作のミュージカル版をオフブロードウェイで上演するために奮闘していて、作品のこともすごく好きになったので映画は絶対に観ると決めてたんです。



オンラインで上演されたミュージカルですね。すごい挑戦でしたね。


レベッカ役として出演、振り付け師やキャスティングなど制作としてもがっつり入っていたのですが、新型コロナウイルスの影響でやはり劇場が開かなくて。曲作りやリーディング、最終的な上演もすべてzoomという大変なチャレンジでした。オンラインの可能性を知ることができたのは良かったし、制作として関わることができて本当に学びが多かった。でもやっぱり舞台でやりたかったですね。



◆ ニューヨーク中の劇場がクローズになって、演劇界はどのような空気なんですか?


みんなすごく舞台を欲しています。私も2月にニューヨークに戻るのですが、劇場もオーディションもいつ開くか見えない状況。それでもリモートでレッスンを受けたり、短期スクールに入ったり、いつチャンスが来てもいいように準備しておきたい。



◆ 個人的にもzoomでレッスンを開催されたり、新しい活動を始められている印象です。


お陰様でオンラインレッスンを受けてくださる方が増えて、家賃が払えるくらいの収入になっているので本当に助かっています。教えることはもっと先の将来でやろうと思っていたのですが、やってみたら自分に返ってくるものがすごく大きかった。いま始められて良かったです。




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劇団四季から単身ニューヨークへ。個を大切にしてくれるショービズの聖地。

◆ ミュージカルは小さい頃からの夢だったんですか?


6歳から9歳までアトランタに住んでいて、すごくアメリカが好きになったんです。ミュージカルは10歳からやっていて「将来アメリカで歌って踊れる女優さんになりたい!」と思うように。高校生卒業後にダンスの専門学校へ入って、自分の中ではディズニー→劇団四季という夢のコースがあったんですが、両方落ちたので1年間ニューヨークへ。現地では出演オファーもいただいたんですがビザの問題で働けず、まずは日本で実績を積もうと帰国して四季に入団しました。



◆ 劇団四季でもご活躍でしたが、”ブロードウェイにいく!”と常に意識していたんですか?

四季にいた時は四季のことで手一杯。食らいつくのに必死でした。「春のめざめ」や「キャッツ」など、ブロードウェイのミュージカルで現地スタッフと一緒に仕事ができたのは大きな経験。彼らと仕事をするのが夢でしたし。四季での5年間は私の役者としての土台ですね。四季サマサマです。



◆ それで単身ニューヨークへ行かれたと。不安はなかったんですか?


なかったですね。ペラペラの楽譜一枚だけ持って行きました(笑)。履歴書の書き方も写真の撮り方も、オーディションの準備の方法も、全部現地に行ってから学びました。由水南さんというブロードウェイで活躍されている四季の先輩にすごく助けてもらった。ビザが取れなかった時も「絶対大丈夫だから!」と励ましてもらって。私のメンターですね。



◆ ニューヨークでやっていける!という実感が湧いたのはいつ頃からですか?


最初の3年はディナーシアターや子供向けの舞台など、何でもやっていたので仕事がけっこう取れて。4年目から壁が立ちはだかりました。永住権がなくてオーディションが受けられなかったり、アメリカ人じゃないからとオーディションで落とされたり。挑戦したいことに挑戦できない苦しさでグルグルしていました。でも2018年にやっと、長年夢見ていた「コーラスライン」のコニー役を千秋楽までやりきることができて、自信を取り戻せた。そこからですかね。少しずつ道が開けていく兆しが見えたけど、そんななかで昨年コロナが発生してしまって…。



◆ もしコロナがなかったら昨年は大きな飛躍の年だったんですね。


すごいいい年になるはずだった。例年1-3月はオーディションシーズンで、仕事が決まらないまま春が近づくと焦り出すんですね。でも去年は1月の時点で3本作品が決まっていたし、ユニオンにも入れる予定だった。コロナはないほうが絶対に良かったです。でも、オンラインレッスンを始めたり、日本との繋がりが増えたり良いこともあった。まだ状況は見えないですが、新しく得たものが上手く繋がればいいなと思います。何があっても最終的に言葉に出ることはいつもポジティブです(笑)。



◆ 役者として生きるなら、やっぱりアメリカがいいんですか?


そうですね。土地も人も好き。ニューヨークは色んな国の文化が混ざり合う街なので、多様性を認め合えるんです。チャンスは平等にあるし、無名の人がいきなり抜擢されることもある。一度「ミス・サイゴン」のオーディションを受けさせてもらえなくて、履歴書を持って直談判しに行ったら呼んでもらえたことがあったんですが、自分次第でいくらでも可能性が広がるんですよね。作品に参加すると、役者の個を大切にしてくれているのを感じます。例えばダンスなら「君のその動きがいいから取り入れよう」とか、俳優の持っているものを活かしてくれる。生き残るのは大変だけど、その分選ばれた時の喜びも大きい。エネルギーが集まっている感じが刺激的です。



◆ 役者冥利につきますね。それでも日本人であることはネックにならないですか?


最初は私もアメリカ人みたいにならなくちゃいけないって思ってたんです。でもニューヨークでやっているうちに、”日本で生まれた日本人俳優”というアイデンティティを大切にしていけばいいんだと思った。それを強みにできるにはまだ至ってないんですが、私は私の人間性と考え方をしっかり認めて生きていけるようになりたいですね。でもこれからブロードウェイを目指す若い人には、アメリカの演劇学校への留学を強くおすすめします。語学もそうですが、横の繋がりができるし、アメリカでやりたいなら現地の演劇ABCは学んでおくべきだと思います。



◆ かっこいいです。帰国前の31日に劇団四季の同期・谷口あかりさんとライブをやられるそうですが!


めっちゃ楽しみです。デュエットで数曲やるのは初めてなので新しい挑戦。オンラインでも配信するんですが、ミュージカルを見たことのない方にも見ていただけるのが嬉しいですね。最後に「Thank you for the Music」という曲を歌うのですが、”歌と踊りがなければ私達はどうすればいいの!”という歌詞があって、本当にその通りだなと。緊急事態宣言も出て大変な中ですが、音楽の力で皆さんに少しでも元気を届けられたらと思います。




《 Profile 》

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撫佐仁美 (Musa Hitomi)


ニューヨークを拠点に活動するミュージカル俳優/振付師。元劇団四季所属。日本では、『キャッツ』、『ウェストサイドストーリー』、『春のめざめ』、『マンマミーア』に出演した後、 2013年に拠点をNYに移し、米国では、『コーラスライン』コニー役、『アベニューQ』クリスマスイブ役、『ミス・ サイゴン』など、オフブロードウェイの新作ミュージカルを含め、 数々の舞台に出演し、振付も手がけている。2019年、 チャーリーブラウンクリスマスミュージカルの全米ツアーでスヌーピー役を演じ、昨年開幕予定であった『えんとつ町のプペル』 を原作とした、オフ・ブロードウェイミュージカル" Poupelle of Chimney Town"オンライン公演ではレベッカ役として出演した。



★リアル開催&ライブ配信★

My JAM is you 〜AKA×MUSA mini live〜

◆日時:2021年1月31日(日)14:00〜15:30 開場13:30 ◆出演:谷口あかり・撫佐仁美・piano 石渡裕貴 ◆会場:俺のGrill東京(東京都千代田区大手町1-7-2 東京サンケイビルB2F) ◆料金: ・来場:3,500円(税込)俺の特製ベーカリー&ジャムのお土産つき ※予約締切 1/29(金)24:00 ・配信:3,500円(税込)俺の特製ベーカリー後日配送 *アーカイブなし生配信

https://akamusa.peatix.com



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撮影協力:SAAI -Wonder Working Community-


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執筆者 : 井上麻子 /Asako Inoue

食べること、つくることに関する取材が多め。舞台芸術、スポーツ観戦、音楽イベント、卵など、“生”で楽しめるものはたいてい好き。SAKE DIPLOMAの資格を持ち、「日本酒のおねえさん」としてときどきポップアップSAKEバーも開催している。