国内で数ある戯曲の中でも特に上演回数が多くファンも多い、故・清水邦夫の名作『楽屋 ー流れ去るものはやがてなつかしき』。キャストは4人、舞台は楽屋。女優が女優を演じるという真剣勝負のこの舞台に、これまでミュージカルを中心に活躍してきた木村花代さん、大月さゆさんが挑戦します。絶賛稽古中のお二人に、緊急インタビューしました。
女優になりたかった、原点に立ち戻れる作品
●数々の役者によってこれまで何度も上演されてきた『楽屋』ですが、出演が決まった時はどんな気持ちでしたか?
木村:ミュージカルではなくストレートプレイの作品でオファーをいただけたことがすごくうれしかったです。さらに意外なキャスティングのもと、今回の役をやらせていただけることにワクワクしています。この戯曲は1977年に書かれたんですが、実は私も同い年で。だからご縁というか、コロナ渦の今のタイミングで、女優人生を生き直すきっかけになるのではないかと勝手に思っています。
大月:私もうれしい。実は10年前にシアタートラムでシス・カンパニーさんの公演を観ていて、すごく印象に残っている作品でした。あの舞台を私がやる日がくるとは!という感動と、勝手知ったるこのメンバーでできることが楽しみで仕方がなかったです。有名な作品なので怖さもあったんですが、取り組んでみたらすごく楽しくて。このまま楽屋に居着いてしまいたい気持ちになっています。
●歌や踊りがないストレートプレイはやってみていかがですか?
大月:こんなに芝居だけに集中していいんだ!と思っています。いつもはダンスや歌の稽古の方に時間を割くことが多いので、お稽古に来て芝居だけして帰るなんて贅沢だなぁと思います。
木村:私はもともとお芝居がやりたくて演劇を始めたんです。劇団四季に入った時は本当に歌もダンスもできなかった(笑)。だから今回の舞台は、その頃の情熱を思い出させてくれますね。原点に立ち戻れるというか。
『楽屋』は女優が演じたい作品
●『楽屋』は国内全ての演劇の中でも非常に多く上演されてきた作品ですが、お二人にとってこの作品を演じるというのはどんな意味がありますか?
木村:女優が”女優”を演じるので、登場人物4人全員の心理が手に取るようにわかります。ある意味役作りがいらない。「ああ、私は女優なんだなぁ」と変な実感があって、また理解できる自分を褒めてあげたいような誇らしい気持ちになります。
大月:たしかに、女優をやっているからよりわかるなぁと思う部分は多いです。
木村:台詞の奥にある意味とか細かいニュアンスとか、女優をやってきたからこそグサッと胸に刺さることが多くて、深いなぁ…と思います。あ、そうか!役者が演りじたい作品だから公演数がこんなに多いのかもしれない。観て面白いだけでなく、女優が女優として向き合ってみたい作品なんでしょうね。
●なるほど!!発見ですね。作中には舞台に出たくても出られない女優たちの姿が描かれていますが、舞台公演が少なくなっているコロナ渦のタイミングで、この作品を届けることにも意味を感じます。
木村:ありますよね。女優Aは時代の流れのせいで舞台に立てなかった人だし、プロンプターの話でもあり、舞台に立ちたくても立てない苦しみを持った人がたくさんいる現状とリンクすると思います。夢を諦めた子たちの姿がよぎって切なくなることもある。お芝居をできる喜びやありがたさをいつも以上に深く感じます。
●作中に”女優は報われることが少ない職業”というような台詞が出てきますが、それでも「この仕事が好きだ!」と執着してしまう登場人物たちに、お二人も共感されますか?
2人:します!(声を合わせて)
木村:その台詞を聞いた時に、じゃあ自分は何を今まで犠牲にしてきたかなぁって考えたりしました。シス・カンパニーさんの公演の時のパンフレットに、女優って”女が優れる”って書くというようなことが書いてあって、なるほどと思ったんです。母や恋人としてではなく、”女”として優れている。例えばお子さんを諦めて、女優一本で生きていくという決意をしなくてはいけないこともある。私もそれで悩んだ時期があったので、すごく共感できますね。もちろん両立されている女優さんもたくさんいらっしゃるんですが、普通の職業とは違う感覚のような気がします。
大月:私はある演劇のワークショップで「なぜこの仕事を続けているのか?」と聞かれたことがあって。その時「好きだから」と答えたら、すっごい怒られたんですよ!あの時どう答えるべきだったか未だにわからなくて、やっぱり今になっても「好きだから」なんですよね。
木村:理由も答えもないよね。
大月:そうなんです!だた自分が行きたいと思ったのが、そこだっただけ。あとは自分の芸にまだまだ大満足できていないから、ずっと追いかけているんだとも思います。
木村:終わりがないもんね。
●もう一つ、いつ来るかわからない役のために準備して待つというのも、女優さんならではのような気がして。
木村:ありますあります。私も昔はこの役をやりたいなって思ったらずっと練習して、いつオーディションがあっても大丈夫なようにしていました。
大月:あと普段から「自分は商品なんだ」という意識はありますよね。落としちゃいけない筋肉とか、磨いておくかなくちゃいけないところ、身体をボロボロにしてはいけないとか。でもチャンスに備えて整えておくというのは、女優でなくても大事な心得ですよね。
ステレオタイプにとらわれない新解釈の『楽屋』を見せたい
● まもなく6月9日から開幕ですが、楽しみですか?
木村:なんか、いまが一番楽しい気がする…笑
大月:公演が近づいてきたら急にわぁぁってなりそうですね。お稽古がすごく楽しい作品なので、もっと稽古場にいたいっていう気持ちと、早く舞台に立ちたい気持ちと両方あります。
木村:まったく新しい『楽屋』にするのは難しいかもしれませんが、やるからには歴代の方々がやられてきたものとは違う形で「こういう解釈もあったんだ!面白い」と言って頂けるようにしたいですね。
● 最後に、これからエンタメ業界を目指す若者にメッセージをいただけますか。
木村:昔だったら「夢を諦めなければ大丈夫!」と言ってたと思いますが、そんなことを言わなくても今の若い子達には自分で作り出す力がありますよね。だから、「作りたいものを作ってくれ!」と言いたいです。突拍子もないアイデアと若いパワーで、演劇の灯火を絶やさないようにしてほしいし、同時に古典も愛してもらえたら。私も若い世代の子たちが一緒にお仕事したいと思ってもらえる役者でい続けたいです。
大月:今の時代の感覚に合うかはわからないですが、私は先輩から「迷った時は一年考えろ」と言われたことがあって。一年悩めば、悩みは全然違う景色に見える。いまは流れの速い時代ですし、諦めちゃいそうになると思いますが、即決せずにしがみついてみる。執着みたいなことは、ある意味大事だと思います。新たな天才、続々お待ちしております!って感じですね。
《 Proflie 》
木村花代(きむら はなよ)
劇団四季の主演女優として『キャッツ』グリドルボーン役、『オペラ座の怪人』クリスティーヌ役、『美女と野獣』ベル役、他多数の作品に出演しヒロインを演じる。 2018年8月芸能活動20周年を記念してCDアルバム「Change of Flower」を発売し東京、大阪にてコンサートも開催した。 退団後の主な出演作品に、ミュージカル『メリー・ポピンズ』『星の王子さま』『キューティ・ブロンド』『Play a Life』丸美屋食品ミュージカル『アニー』『ミス・サイゴン』LIVE活動も精力的に行い、沖縄・熊本にてコンサート、NYカーネギーホールにて歌唱を披露。2021年夏「SMOKE」出演予定。
大月さゆ(おおつき さゆ)
2003年宝塚歌劇団に入団。雪組に配属され、下級生の頃から数々の重要な役を務める。 2007年『エリザベート』新人公演にてエリザベート役、『シルバー・ローズ・クロニクル』『凍てついた明日』などではヒロインに抜擢。 2010年宝塚歌劇団退団。退団後の主な出演作は、『デスノート』『美少女戦士セーラームーン』『うつろのまこと―近松浄瑠璃久遠道行―』『マイ・フェア・レディ』『HARUTO』『アルジャーノンに花束を』などミュージカルを中心に幅広く活動している。 また、いしかわ観光特使、石川県能美市観光大使として地元でも活動を行っている。8~10月望海風斗コンサート『SPERO』レギュラー出演予定。
公演概要
『楽屋 ー流れ去るものはやがてなつかしき』
♦︎公演日程:2021年6月9日(水)~13日(日)
♦︎会場:博品館劇場
♦︎作:清水邦夫
♦︎演出:稲葉賀恵
♦︎出演(五十音順):彩吹真央、大月さゆ、小野妃香里、木村花代
♦︎上演時間:70分程度を予定/開場は開演の45分前
♦︎チケット:6,800円(前売・税込)
執筆者 : 井上麻子 /Asako Inoue
食べること、つくることに関する取材が多め。舞台芸術、スポーツ観戦、音楽イベント、卵など、“生”で楽しめるものはたいてい好き。SAKE DIPLOMAの資格を持ち、「日本酒のおねえさん」としてときどきポップアップSAKEバーも開催している。
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