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  • 執筆者の写真大本千乃 (おおもと ゆきの)

激しい戦いをスペクタクルに描く 『進撃の巨人』-the Musical- ゲネプロレポート

ミュージカルも2.5次元作品も大好きな筆者が、garnet読者のみなさまに「『進撃の巨人』-the Musical-」ゲネプロの様子をいち早くお届けします。


1月7日(土)から3日間大阪・オリックス劇場で上演された「『進撃の巨人』-the Musical-」。その東京公演が1月14日(土)より日本青年館ホールにて開幕する。諫山創による漫画「進撃の巨人」を原作としたミュージカルで、演出を手がけるのはダンサー、俳優、アーティストなどさまざまな活躍をみせる植木豪。大阪から東京へと劇場を移し、ますます期待が高まるなか、1月13日(金)に行われたゲネプロの様子をレポートする。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会(以下、写真はすべて大阪公演より)

左から岡宮来夢、母カルラ・イェーガーを演じる舞羽美海、高月彩良。


「進撃の巨人」は圧倒的な力を持つ巨人に人類が立ち向かう様を描いたダークファンタジー作品。

人類は巨人に支配され、ほとんど食い尽くされた。生き残った人々は巨人に破られないよう強固な壁を築き、100年もの間を壁の中で安全に暮らしている。ところが平和な日々が続くと思われていたその日、再び巨人が襲来する。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

左から小西詠人、高月彩良、岡宮来夢。


全体を通してとにかく印象に残るのはスピード感だ。音楽に乗ってリズムを刻むように語る台詞があり、ロックやヒップホップなど、テンポの速い楽曲に乗せた群舞やセリフが絶え間なく続く。それが息つく隙もなく転換していくことで作品の疾走感につながり、約2時間の上演を飽きることなく楽しませてくれる。2.5次元作品にあまりなじみのない人は、ライブを楽しむつもりで観劇するのも良いかもしれない。


主人公エレン・イェーガーを演じるのは岡宮来夢。壁の外の巨人に挑む「調査兵団」の一員になるべく、兵士を育てる訓練兵団に入り、厳しい訓練を重ねる。入団前、友人アルミン・アルレルト(小西詠人)と共に未知なる壁外の世界への希望を歌う場面では、岡宮の無邪気でいて強い信念のある表情が光る。兵士になってからも純真無垢なキャラクターは残しつつ、巨人への憎しみと戦意を全身で表現する。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

左から高月彩良、小西詠人、コニー・スプリンガーを演じる中西智也。


小西が演じるアルミンはエレンとともに訓練兵となる、考察力や判断力に優れた少年だ。一見臆病だが、彼の「心臓を捧げる」敬礼は原作において記憶に残るドラマチックなシーンであり、ミュージカル版においても観客の心を打つ。巨人との戦いに耐え切れず苦しむ彼は訓練兵たち皆の苦しさや辛さを代弁するようだ。エレンの幼馴染ミカサ・アッカーマンは高月彩良が演じる。同じく訓練兵となり、プロジェクションマッピングの街並みを背景に迫力あるフライングで魅せてくれる彼女は、誰よりも強い! 冷静な言葉ひとつひとつにも熱い信念が宿る。調査兵団の団長はエルヴィン・スミス(大野拓朗)。エッジのきいた声で兵士たちを統率する。真剣なまなざしと力強い歌声は、戦意喪失しかけた兵士たちにも届き、やがて全員を巻き込んでの大合唱となる。落ち着いた振る舞いから、団員からの厚い信頼も見て取れる。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

一番左が立道梨緒奈。中央で教科書を掲げているのが星波。


人々は巨人に殺されていき、兵士も市民も絶望に追いやられる場面が多いこの作品だが、時にはコミカルな部分もありテンポよく進行していく。清涼剤となる役どころとして、注目すべきは星波演じるサシャ・ブラウス。前述の3人と同じく訓練兵団の一員で天真爛漫。入団時には皆が敬礼する厳格な雰囲気の中であっけらかんとしたセリフを吐いたりと、原作に忠実でいて、舞台では憎めないキャラがさらに際立つ。そして調査兵団に所属するハンジ・ゾエ(立道梨緒奈)。その颯爽とした姿はダークな作品に軽やかな風を吹かせる。巨人の生態について講義を行う場面、実は原作では別のキャラクターが担うのだが、ハンジの興味津々で楽しそうな笑顔が印象的だった。


Blade Attackersと称されるアンサンブルの俳優たちも強烈な存在感でこの舞台をつくる。現状に怒りや苦しみを訴える農民たち、巨人に襲われそうになり祈る民衆など多様な人物を演じ、それぞれの場面で一体感のある身体表現と歌唱をみせる。訓練兵としてエレンらとともに訓練する場面は、集団でのダンスがあり、アクロバットあり、ブレイクダンスあり、ワイヤーアクションにトランポリンもあり! 舞台空間を目いっぱい使用したパフォーマンスは見どころ充分で、一度で全てを堪能するのは難しく思えるほどだ。また、彼らBlade Attackersによる台詞やソロパートも多く、ひとりひとりの個性が際立った。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

左から星波、中西智也、マルコ・ボット役の泰江和明、ジャン・キルシュタイン役の福澤侑。


さて、作品名からして、巨人を舞台でどう表現するかが気になる点だろう。「進撃の巨人」と聞いて、壁の上に巨人が顔を出す有名なシーンを思い浮かべる人も多いかもしれない。人類と巨人の圧倒的な大きさと力の差は、映像や巨大パペット、そして生身の俳優による演技を巧みに組み合わせることで示され、舞台ならではの立体的な手法が活きた演出になっている。パペットは巨人1匹に対し7人がかりの大迫力。原作の良さを生かした大胆なスペクタクルは、是非劇場で確かめてほしい。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

左から松田凌、大野拓朗。


原作を知る者にとってもう一つ気になるのは、兵士たちが身に着けている「立体機動装置」ではないか。これを操作することで彼らは市街地を縦横無尽に飛び回る。この装置を使いこなすリヴァイ(松田凌)や訓練兵たちの身体表現と映像がぴったり合い、立体機動のスピード感と、それに伴う戦いへの恐怖が味わえる。観客が兵士の目線で楽しめる、臨場感のある場面だ。


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会


巨人の圧倒的な力を前にして無謀とも思われる戦いをするこの作品では人類が次々に犠牲となるシーンもあり、鬱々とした気分になるかもしれないと身構えていたが、そこは幸い予想に反し、壮大なエンターテインメントと迫力ある音楽に身を委ねることができた。集団でのダンスとそれぞれのキャラクターの心情表現や力強い歌声は2.5次元という枠を超えても見事。さらにアクロバティックで美しい戦闘シーンは観ていて高揚感があり、観劇後はすがすがしい満足感に包まれた。

現実とはかけ離れたストーリーだからこそ、この世界に思い切り飛び込んで堪能してほしい。自由を求めて果敢に戦う兵士たちから、日々を力強く生きる活力をもらえるだろう。


 

公演情報

『進撃の巨人』-the Musical-


公演期間・劇場

【大阪】2023年1月7日(土)~1月9日(月・祝) オリックス劇場

【東京】2023年1月14日(土)~1月24日(火) 日本青年館ホール


原作

諫山 創「進撃の巨人」(別冊少年マガジン/講談社)


演出:植木 豪

脚本:畑 雅文

音楽監督:KEN THE 390

作詞:三浦香


出演

エレン・イェーガー役 岡宮来夢

ミカサ・アッカーマン役 高月彩良

アルミン・アルレルト役 小西詠人


ジャン・キルシュタイン役 福澤 侑

マルコ・ボット役 泰江和明

コニー・スプリンガー役 中西智也

サシャ・ブラウス役 星波


ハンネス役 村田 充

キース・シャーディス役 林野健志

ディモ・リーブス役 冨田昌則

カルラ・イェーガー役 舞羽美海

グリシャ・イェーガー役 唐橋 充


ハンジ・ゾエ役 立道梨緒奈

リヴァイ役 松田 凌

エルヴィン・スミス役 大野拓朗


<Blade Attackers>

Toyotaka RYO gash! SHINSUKE HILOMU Dolton KENTA GeN KIMUTAKU 下尾浩章 下川真矢 横田 遼 橋渡竜馬 中⻄彩加 MARISA 松本ユキ子 陸 NONN 河島樹来 加藤貴彦


主催:「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会

チケット料金:13,000円(全席指定/税込) 好評発売中




執筆者:大本 千乃 (おおもと・ゆきの) 2001年生まれの現役大学生。舞台スタッフ(主に舞台監督)の技術を勉強中。名前の読み方が難しいため、漢字そのまま、せんちゃんと呼ばれている。趣味はミュージカル鑑賞・オペラ鑑賞。最近は2.5次元舞台やストリートプレイにも興味がある。座右の銘は勇往邁進。




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