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執筆者の写真井上麻子 /Asako Inoue

くれなずむ男子たちの愛おしい物語。映画『くれなずめ』松居大悟監督×目次立樹さん 対談




劇団ゴジゲンのオリジナル舞台「くれなずめ」の映画版が4月29日(木・祝)から公開。監督・脚本を務めた松居大悟さん、舞台版に続きネジ役で出演した目次立樹さんと作品についてお話しました。成田凌さんをはじめ、松居監督が“会いたい”キャストを集めて映像化された本作。久しぶりに再会した同級生6人のほのぼのストーリーかと思いきや、もっと繊細で、もっとパーソナルで、切ない。なんだか抱きしめたくなるような作品でした。



彼は自分の中ですごく生きている。

 

●作品拝見しました。お二人ももうご覧になられて、お互いに感想など言い合われたんでしょうか?


松居:僕はもう100回以上みてますので。


目次:お互いに感想を言い合うことってないんですけれど、まあ…面白かったんじゃないかって、言いました。


松居:キレ悪いな(笑)



●舞台版は2017年に公演されていますが、映画化をされるつもりなかったんですよね。


松居:この作品はもともと一緒に演劇をやっていた友達のことを「あいつは自分の中ですごく生きてるなぁ」って想って、作っただけなんです。そんな個人的な作品をたくさんの方に関わってもらって、たくさんのお金を使って映画にするなんて滅相もないと思ったんですが、プロデューサーの和田さんはじめ、脚本を読んで「やりたい」と言ってくれた成田くんや皆がいてくれたから、映画として必然性のあることをやっていこうと思いました。



●映画のオフィシャルサイトに掲載されていた松居さんのコメントに“友だちみたいな映画です。”と書いてあって、本当にそうだなと。メインの6人のキャスティングが素敵でした。


松居:内向きの作品でしたし、キャストは自分が一緒にやりたい方にオファーしました。これまでご一緒したことがなくても、他の作品を観て「会いたいなぁ」と思っていた方など。



●登場人物のキャラクターが一人一人すごく繊細で、俳優さんもぴったり合っていたと思います。ネジさんも作業服が似合って…


目次:やったぁ!


松居:笑笑



物語の要である吉尾役の成田凌さんは「一番演出がしづらかった」というコメントを見たのですが、実際そうだったのでしょうか?


松居:僕自身わかってなかったですからね。吉尾ってどういう奴かわからなくて。


目次:何考えてるのかわからないけれど、気になる奴みたいな。


松居:だから成田くんにオファーしました。僕の中で、不思議とワクワクしてくる、目が離せない役者だったので。成田くんが吉尾として話したり動いたりしているのを見て、吉尾ってこういう奴なんだなぁって、逆に成田くんに教えてもらったというか。



目次さん演じるネジくんは5人の中でも一番吉尾と距離が近い感じでしたよね?


目次:役としてもそうでしたが、映画に出てくる吉尾のエピソードの一つ一つが、物語の元になった役者仲間の彼とのエピソードを参考にしている部分がけっこうあって。そういう意味でも、成田くんなんだけど彼のことがふぁっと蘇る瞬間があって、切なくなったりしましたね。



●ソース役の浜野謙太さんは念願の松居さんに“翻弄され尽くし、悩み、笑い、泣かされ…”とコメントを寄せておられましたが、現場での松居さんは結構激しい演出をされたりするんですか?


松居:“仏の松居”と言われています。


目次:……とは言わないですけれど。コソコソっと役者に近づいてきて、コソコソっとなにか伝えて戻っていくみたいな感じです(笑)。


松居:大声を出して、「さあ右へ舵をきれぇぇぇ」みたいなことは言わないです。


目次:そうですね。劇団の時とはモードが違うので、僕も気軽に話しかけられない雰囲気ではあるのですが、怒鳴って「そこ◯◯しろぉぉぉ」とかは言わないですよね。


松居:作品を仕切ろうとしている奴みたいになるとみんなが意見を言えなくなりますし、僕が示した方向に行くしかなくなっちゃうのはイヤなんです。



●『くれなずめ』も役者さんやスタッフさんの意見を取り入れていかれたんですか?


松居:撮影に入る前に1週間くらいリハーサル期間を作ってもらったので、そこでみんながどんな考えを持っているのか話したり、いろいろ試せた気がしますね。



●おお。どんなことをやったんですか?


松居:ダンスの練習もやりましたけど、基本的にはダラダラとご飯を食べて下ネタを話して、みたいな一週間を過ごしました。読み合わせもそんなにしてない。『くれなずめ』に関してはセリフの言い回しを上手いことやったり、動きを正確にすることは正直どうでもよくて、単純にこの6人が信じ合っていたらこの作品は成立すると思っていたので。



そんな時間があったからこそ、作品の中の6人のあの空気感が出来上がっていたんですね。現場もすごく楽しかったそうですね。


目次:休憩時間になるとみんな途端にふざけだして(笑)。真面目な話もする時はするんですけれど、差し入れの芋けんぴが美味しかったとか、女子高生みたいな会話をしていましたね。


松居:台本とか読んでたら、うわ台本読んでる!熱くなっちゃって、みたいな(笑)


目次:恥ずかしい奴みたいなね(笑)


松居:そういう感じでイジれるくらいお互いを信用できる、すごいいい現場でした。



●作中で6人が赤ふんどしにこだわっているのが私的には謎で。絶対に恥ずかしいのに、どうして披露宴でやるんだろうって。でもそれは吉尾くんとの思い出を大事にしたいからなのかなって思ったんですが。


松居:そんな大層なもんじゃないです(笑)。吉尾は思い出とか過ぎたものではなく、彼らの中では“いる”から。彼らが赤フンで余興をやるのは、本当にふんどし芸が面白いと思ってるからです。僕も地元に帰ると友達と集まっていつもおんなじ話でゲラゲラ笑ってるんですけど、でもそれって大衆の目にさらされると全然面白くないんですよ。そういう温度差が、なんかいいなあって思ってて。実は僕も実際に、結婚式の余興で赤フンでハンドベルをやったことがあるんですよ。「うわーーー絶対ウケるーー!ゲラゲラゲラ」ってすごい盛り上がったんですけど、


目次:そっちいっちゃったかぁ…


松居:いざやったら大スベりして(笑)


目次:うわぁ〜キツイキツイ。


松居:忘れられないですよね。でもそのあと、赤フンで大スベりしたことには誰も触れないんですよ(笑)。それが愛おしくてね。



松居さんにも赤フンストーリーがあったとは(笑)。目次さんはダンスが一番キレキレでしたね。


目次:舞台版からやっているんで。舞台版の振り付けはウルフルズさんの『それが答えだ!』のPVのものとほぼ同じで、当時もゴジゲンのみんなと練習しました。


松居:そうそう。それでPVの振り付けをやっていたのがパパイヤ鈴木さんだったので、映画でもパパイヤさんに振り付けを担当していただくことができました。


目次:まさか自分の人生においてパパイヤさんに振り付けをしてもらえる日が来るとは…感無量ですね。



赤フンダンスは一つの見どころですね(笑)。最近松居監督が“居場所”という言葉がよく使われるような気がしているんです。4月1日からザ・スズナリで公演が始まるゴジゲンさんの舞台『朱春(すばる)』の紹介文でも入っていて。


松居:あ、そうですか?でも『朱春』は内容が変わるかもしれないです。


目次:台本がね(笑笑)


松居:そうです。1ページもできていないんで。(※2021年3月9日取材)



そうなんですか!(笑)。まあそれはさておき、『くれなずめ』の6人は、お互いがお互いにとってかけがえのない“居場所”なんじゃないかと思いまして。時間が経っても変わらなくて、昔と同じようにひたすら冗談を言えて、吉尾くんへの想いを同じ濃度で持っていて。なかなか出会えない居場所だなぁと。


松居:でも逆もあるかなと思っていて。ここが居場所というよりも、“他に居場所がない”という表現のほうが正しいと思います。たとえば大成も一見リア充に見えるけれど、サラリーマン生活の中にたぶん居場所がなくて。なんかこう、許し合ってくれるのはこの6人なのかなって。それこそ作中で、6人は披露宴と二次会の間の時間を潰すわけですが、どこの喫茶店も居酒屋も入れなくて、居場所を探してウロウロしている。この6人はそれぞれの居場所が見つかるまでのさりげなくて、情けない場所にしたいなって思ってました。



●なるほど。松居監督が「曖昧な時間に真実が宿る」ってコメントされていたのが気になって、この『くれなずめ』で切り取られている時間も、そういう曖昧な時間だなと思いました。


松居:作品として描かれるのって、披露宴そのものだったり、なにかを達成したとか大喧嘩したとか、そういう華々しい瞬間が多いと思うんです。でも僕は、そこからこぼれ落ちていった、まだ名前が付けられていない時間、そもそも形容されてないような時間や感覚が好きなんです。そういう時間や感覚って説明できないし、何も起こらないと思われるから、作品の中で描かれることって少ないと思うんですど、実際には名前が付けられない時間を過ごしながら人は生きているわけだから、それをなかったことにされるのがすごい、さみしいというか。そこに価値があると信じたいというか。



なんとなくわかります。松居監督はその名前を付けられない時間を取り出して作品や言葉にされるのが、本当に上手ですよね。


松居:あ、ほんとですか!よかったです。『くれなずめ』も特に何か起きるわけじゃないですが、そういう愛おしい時間のお話です。



そうそう、舞台『朱春』のお話もちょっと聞きたいんですが


松居:それは目次くんが一番わかっているはずだ。


目次:わからねえよ(笑)



なんにも決まってないんですか…?


松居:いやいやいや!決まってるけど…全部決まってる…ぜんぶ…なんだろう。


目次:いつも言ってるのは、もう頭の中にはあって、それを出力できれば台本が出てくるんだそうです。


松居:そうなんです。プリンターを繋ぐケーブルをいま失くしちゃってて。出力したいんですけど。


目次:いつもこれで逃げ切られてます。慣れっこです。


松居:本当に『くれなずめ』と似ているというか、何気ない時間の話になる気がします。


目次:書けるのかこれで記事が(笑)


松居:口ごもってしまってすみません!



〈Profile〉

松居大悟 (まつい だいご) 劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を担う。12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。その後『スイートプールサイド』、『私たちのハァハァ』、『アズミ・ハルコは行方不明』など監督作を発表、枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。テレビ東京系列「バイプレイヤーズ」シリーズではメイン監督をつとめ、J-WAVE「JUMP OVER」ではナビゲーターを担当。2020年には自身初の小説「またね家族」を上梓。


目次立樹 (めつぎ りっき)

慶應義塾大学入学とともに演劇サークルに入団し、松居大悟とともに劇団ゴジゲンを旗揚げ。舞台上では圧倒的な存在感を放つ、松居作品には欠かせない存在。2011年からのゴジゲン活動休止期間の3年間は栃木での農業修行を経て、地元・島根県にて俳優、農家、ワークショップデザイナー、児童クラブの先生として活動の場を広げる。2014年のゴジゲン再結成を機に、本格的に東京での俳優としての活動を再開する。




<作品>


『くれなずめ』

公開時期:2021年4月29日(木・祝)  テアトル新宿他にて全国公開

監督・脚本:松居大悟

出演:成⽥凌、若葉⻯也、浜野謙太、藤原季節、⽬次⽴樹/飯豊まりえ、内⽥理央、⼩林喜⽇、都築拓紀(四千頭⾝)/城⽥ 優、前⽥敦⼦/滝藤賢⼀ 、近藤芳正、岩松了/⾼良健吾

主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ⾊」(Getting Better / Victor Entertainment)

配給・宣伝:東京テアトル


©2020「くれなずめ」製作委員会



 

執筆者 : 井上麻子 /Asako Inoue

食べること、つくることに関する取材が多め。舞台芸術、スポーツ観戦、音楽イベント、卵など、“生”で楽しめるものはたいてい好き。SAKE DIPLOMAの資格を持ち、「日本酒のおねえさん」としてときどきポップアップSAKEバーも開催している。



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