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  • 執筆者の写真松村 蘭(らんねえ)

「モノトーンの世界にどう色を放てるか」〜彩吹真央が語る『五番目のサリー』出演への意気込み〜



ミュージカル、ストレートプレイ、朗読劇など舞台を中心に幅広いジャンルでの活躍が印象的な彩吹真央さん。宝塚歌劇団で初舞台を踏んだその日から、今日まで歩みを止めずに役者人生を進み続けていらっしゃいます。 そんな彩吹さんは、2021年10月21日(木)に初日を控える舞台『五番目のサリー』の稽古真っ只中。今回はその稽古場にお邪魔し、稽古の様子や今感じている作品の魅力、そして彩吹さん流の仕事との向き合い方までと語っていただきました。



じっくり丁寧に ストレートプレイならではの濃密な稽古

 

●お稽古が始まって2週間程経った(取材当時)ということですが、手応えはいかがですか?


いい感じに進んでいます。『五番目のサリー』はすごく複雑なお話なので、お稽古期間を長くいただけて良かったなと思う毎日です。今回はミュージカルではなくストレートプレイなので、1週間以上かけてじっくりと本読みをした上で、少しずつ丁寧に立ち稽古を進めているところです。原作を基に荻田(浩一)さんが台本を書いてくださっていて、一場面一場面がとても濃いんですよ。最初に五重人格の役を主演でさせていただけると聞いたときは「きっと膨大なセリフだろうし、やることも多いから大変なんじゃないかな」と思っていたんです。でもこうして荻田さんが少しずつ進めてくださっているので、作品にも役にもすんなりと入っていくことができました。



●カンパニーの雰囲気はどうでしょう?


めっちゃ楽しいです! 本読みの時間が長かったこともあって、作品や役について話をしながら「この方はこんなことを話すんだなあ」と、その人自身のことも知ることができました。存じ上げている方半分、初めましての方半分だったのですが、今はもう初めましての感じがなくなってきています。お互い遠慮なく意見を言うこともできて、ありがたい環境ですね。



●以前『マリー・アントワネット』(2018年、2021年)で共演された駒田一さんとは、今回は関係性が全く変わりますね。

※彩吹さんは仕立て屋のローズ・ベルタン、駒田さんはヘアドレッサーのレオナールとして、コミックリリーフも担うコンビ役で出演されました。


本当に! 本読みでご一緒して言葉を交わしたときは、すごく真面目ぶっている自分たちに笑っちゃって(笑)。今回の一さんはサリーを見守る役などを担ってくださるのですが、何とも言えない存在感がありますね。実は『マリー・アントワネット』の前に共演した『キム・ジョンウク探し〜あなたの初恋探します〜』(2016年、2018年)でも、お父さん役をしていただいたシーンがあったんです。なので、本読みの段階からその懐にスッと入ることができてありがたかったですね。やっぱり最初はちょっと照れくささもありましたが(笑)。





●彩吹さんと同じく宝塚歌劇団出身の仙名彩世さんとは初共演になりますが、今後も別作品(『20年後のあなたに会いたくて』2021年12月〜)での共演が決まっていますね。


彼女は私が演じるサリーの別人格のベラという役を演じます。ベラは歌や踊りが好きで、セクシーな女性の象徴のような人。仙名さんは歌も踊りもお上手な方なので、ぴったりなキャスティングだなと思いました。実際にお稽古に入ってみると、荻田先生からの「こういう感じで動いてみて、こういう感じで男性に迫ってみて」というオーダーを見事にできているから素敵だなあと思います。




“自分の中の本当の自分”を問いかけられるような物語

 

●今回の舞台『五番目のサリー』は、『アルジャーノンに花束を』『24人のビリー・ミリガン』の作者でもあるダニエル・キイスによる同名小説が原作です。初めて原作を読んだときに抱いた印象を教えてください。


「サリーはどんな役なんだろう」と思いながら読み始めたのですが、いつのまにか自分がサリーをやるということが薄れていく程、没頭して最後まで読み進めることができました。「自分の中の本当の自分って何だろう」と問いかけられるようなお話で、一つの物語としてすごく興味深かったですね。それを舞台上で表現するために、「荻田さんはどのようにまとめてどう演出されるのだろう?」と思っていました。お稽古が始まった今は、荻田さんの巧みな演出に圧倒されています。すごく複雑なのに、人の動かし方によってそれをすんなりと表現してしまうので「荻田ワールド恐るべし!」って(笑)。



●先日、作品のビジュアルが公開されましたが、撮影時はどんなことを意識していましたか?


撮影当時は既に原作を読んでいたので、「冴えない格好をした離婚歴のある三編みのアラサー女性をどのように表現するのだろう?」と思っていたんです。原作に書かれている地味な部分をそのまま表現しようとすると本当に地味になってしまうので、“内に秘めたまだ見ぬサリー”を出せたらいいなと思いながら撮影に臨みました。



●長年舞台で活躍されている彩吹さんが、今このタイミングでサリーという役に出会った意味をどう捉えていらっしゃいますか?


人間って、生まれてから大人になりきるまでの環境や周りの人たちによって人格が形成されていくと思うんですね。「サリーはなぜ多重人格になってしまったのか」ということを問いかけていく作品でもあるので、サリーを見つめると同時に私自身の幼少期のことをすごく思い出すんです。忘れていたものの蓋を久しぶりに開けて「あのとき幼心に傷ついたな、恥ずかしかったな」とか。その蓋を開けたことによって、自分は本当はそういうものを持っていたのに、大人になるにつれてそれが薄れて今の自分になっているのだなと改めて理解できた気がします。そのお陰で「これからどう生きて、どう仕事に向き合っていくか」ということに対峙できたので、すごく嬉しい出会いでもありました。役者としては、これまでにも一作品で複数の役を演じることはありましたが、一人の役の中の別人格を舞台上でスイッチを変えながら演じるということはなかったので、なかなかできない経験をさせていただいているなと感謝しています。




彩吹流、仕事との向き合い方

 

●今回のようにストレートプレイの作品に出演される際、ミュージカルと比べて心持ちの違いなどはありますか?


アプローチの仕方が変わるかなあ。仕事に対しての向き合い方や労力、精神的なものは変わりませんが、ミュージカルはどうしても助けてくれるものがいっぱいあるんです。まず歌ですよね。歌といっても、メロディに助けてもらえる部分、歌詞に助けてもらえる部分、自分の声に助けてもらえる部分、それぞれに助けられながら役を表現できるんです。“ミュージカルマジック”みたいなものもあって、ときには歌やダンスの力を借りて気持ちを持っていくこともあります。けれどストレートプレイではそういったことが一切なく、全部咀嚼して全部クリアにして、嘘がない動きと言葉にする必要があるんです。でないと、荻田さんにすぐ見透かされちゃうんですよ(笑)。もちろんミュージカルでもそうできたらすごくいいし、そこまで達することもありますが、ストレートプレイでは願わくば全場面そうでいたい。笑顔のときは心の中から笑顔を出したいし、泣くときは心からの感情で泣きたい。ただ、それが自己満足に終わってしまってはいけないとも思います。お客様に対してちゃんとした表現にならないといけないから。ここが大変でもあり面白いところだと思います。自分にいろいろ脚色して表現するのがミュージカル、逆にいろいろ削ぎ落としていくのがストレートプレイという感じですね。



●彩吹さんは舞台を中心に幅広いジャンルでご活躍されています。お仕事をする中で心掛けてきたことは?


バランスを楽しむこと、ですね。自信がないことと自信があること、それぞれ素直に向き合うことが大事かなって。苦手なことはそれを攻略するために努力をすればいいし、得意だと思うことに対しても決して過信せず、成長を止めないようにしていく。苦手なことも得意なことも同時に伸ばしていけば、自然と可能性は広がっていくと思うんです。例えば私がお仕事をしていて苦手意識を感じたとき、自分なりに工夫して克服できると、それは強みとなって次に繋がっていきます。あとは、苦手なことをネガティブに考えず楽しむようにしています。じゃないと時間がもったいないじゃないですか。生きている中で嫌なことは誰しも絶対にあるけれど、どうしたらそれが嫌じゃなくなるのかを考えて、少しずつでも克服していく。そうすることでどんなことも段々楽しめるようになっていくのだと思います。



●これから本番までに稽古を重ねてどんどん変化していくと思いますが、『五番目のサリー』はどのような舞台になると思いますか?


お稽古をしていると、客席から客観視したいなあと思うんです。私はほぼ出ずっぱりなのでそれが最も無理な人間ではあるのですが(笑)。荻田さんの頭の中を具現化したときに、絶対にお客様にポーンと伝わるだろうなという魔力みたいなものを今感じています。複雑な精神世界のお話だからこそ、シンプルな舞台装置や衣装を通して、荻田さんの世界観が今までにない芸術的要素の濃い舞台になったら嬉しいですね。モノトーンの世界にどう色を放てるか、というのが役者の力だと思います。役者として、キャンバスに色を描くように色めき立つことができたらいいですね。


●彩吹さんが舞台上でどんな色を放つのか、楽しみにしています!


彩吹真央

大阪府出身。1994年宝塚歌劇団に入団。繊細な演技力と豊かな歌唱力を持つ男役スターとして活躍。2010年宝塚歌劇団を退団後は舞台を中心に活動しており、並行してコンサートやCDなどの音楽活動も展開している。主な出演作に、ジュディ・ガーランド役の体当たりな演技が観客を 魅了した『End of the RAINBOW』や『DRAMATICA/ROMANTICA』をはじめとしたSHOW-ismシリーズ、『シラノ』『ロコヘのバラード』『サンセット大通り』『ラブ・ネバー・ダイ』『フリーダ・カーロ』等のミュージカル作品、『アドルフに告ぐ』『オフェリアと影の一座』『イヌの仇討(こまつ座)』等のストレートプレイ作品や、『VOICARIONⅨ「信長の犬」』等の朗読公演にも多数出演。作品ごとに幅広いキャラクターを演じ分ける。


オフィシャルファンクラブWEBサイト:http://www.mao-ayabuki.jp


★公演概要★


『五番目のサリー』


2021.10.21(木)~10.30(土)

よみうり大手町ホール

全席指定 9,800円(税込)

公式Twitterはこちら



 

執筆者:松村 蘭(らんねえ)


演劇ライター。1989年生まれ。埼玉県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。出産を機にIT企業を退職し、ライターへ転向。仕事のお供はMacBook AirとCanon EOS 7D。いいお芝居とおいしいビールとワインがあるところに出没します。 Twitter:@ranneechan


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