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  • 松村 蘭(らんねえ)

【イベントレポート】『伊礼彼方の部屋 vol.9』〜東山義久×西川大貴×伊礼彼方+海宝直人〜初めてベトナムとアメリカを体験した男達の後夜祭



2022年11月27日(日)夜、久しぶりに『伊礼彼方の部屋』が帰ってきました! 伊礼彼方さんがホストとなり、『ミス・サイゴン』で共演した東山義久さん、西川大貴さん、海宝直人さんの3人をゲストに迎えたトークイベント。本来ならば公演中にゲスト2人を迎えて開催されるのですが、今回は公演終了後かつゲスト3名という特別バージョンでの緊急開催となりました。


『ミス・サイゴン』オーディションに挑んだ理由

 

今回は後夜祭ということで、みなさんペリエを手に乾杯からスタート。実は乾杯の前に一足先にペリエを飲み始めてしまっていた東山さん。そんな東山さんをすかさず伊礼さんがイジりながら、和やかなムードで始まりました。



オープニングからいきなり海宝さんに対して「今日から“直人”って呼びたいのよ」と言う伊礼さん(それまでは“海宝くん”と呼んでいました)。実は伊礼さん、『ミス・サイゴン』の稽古中に海宝さんに対する印象が変わったそうで「この人は芝居で役に没頭できる人なんだということがわかった瞬間、好きになったの」と告白。早速トークの中で“直人”呼びをする伊礼さんを、今度は東山さんがイジり返します。


急遽決まったイベントだったにも関わらず、200近い質問が寄せられました。その中からまずピックアップされたのは「なぜこの作品&役をオーディションで受けたのか」という質問。


2012年にトゥイ役のアンダースタディを経験していた西川さん。衣装も作ってもらい通し稽古も経験したことを明かし「若い自分なりにしっくりきたというか、これは絶対にやりたい役だと思った」と、トゥイ役への熱意を語ります。今回クリスを演じた海宝さんは、2008年公演に19歳でアンサンブルとして出演されていました。それまで子役として活躍していた海宝さんにとって、『ミス・サイゴン』は「大人の俳優として育ててもらった」思い入れのある作品。しかもこのお二人は元々仲が良く、西川さんのトゥイ役の合格を知った海宝さんは「よしキタ! 西川大貴のトゥイがキタ!!」と自分の合格よりもテンションが上がってしまったのだとか。西川さんと海宝さんの『ミス・サイゴン』での共演は、お二人にとっても念願だったようです。



一方、「作品が大好きという理由でエンジニアを受けたわけではなかった」と言う東山さん。以前コンサートでエンジニアのナンバー「♪アメリカンドリーム」を歌った際、「歌って踊れてあえてキザにやることがカッコいいとされる役ってあるんだな」と思ってオーディションを受けたそう。ところがオーディション後、徐々に『ミス・サイゴン』という作品やエンジニアという役の偉大さを感じるようになり、「すごい役を受けてしまった」と気付いたのだとか。これには同じくエンジニア役の伊礼さんも首を縦に振り、激しく同意していました。



エンジニア、クリス、トゥイ〜それぞれの役作り〜

 

トーク中盤はそれぞれの役(エンジニア、クリス、トゥイ)についての興味深いお話が展開されました。


とある公演で、西川さん演じるトゥイが屋比久知奈さん演じるキムに対して「なぜ横向く」という歌詞を言わなかったことがありました。当時、舞台上にいた伊礼さんはてっきり西川さんが歌詞を忘れたのだと思ったそう。しかしその後西川さんに話を聞くと、キムが横を向いていなかったから「なぜ横向く」をあえて歌わない判断をしたのだと言います。「ミュージカルでそれができる役者ってなかなかいないですよ。まあ僕はできますけど」と、舞台上でリアルに役として生きる西川さんを尊敬しつつ、ちゃっかり自身のことも持ち上げる伊礼さんでした。


海宝さんは「『Why God Why?』は物語としては序盤だけれど、クリスの心理としてはクライマックスみたいなもの。そこをどう演じるかで物語の方向性がガラッと変わってしまう」と、クリスという役の難しさを語ります。続けてトリプルキャストのキムの違いを問われると「キムによっても違うし、同じキムでも日によって受け取るものが全然違う」と言います。キムの反応を毎回新鮮に受け取ることで、役者としてのやりがいを感じていたそうです。これを聞いた西川さんは、クリスとキムの関係性について「キムが魅力的だからクリスが恋に落ちた、というだけだと物語として強くない気がする」と分析。海宝さんも「お互いが切実に一緒にいないと倒れてしまうような存在。そのフックになるものが日によって変わってくる感じ」と、クリスとキムの極限状態の恋について同意見を示しました。



新エンジニアの東山さんと伊礼さんは、初日を迎える前にレジェンド市村正親さんから「お前ら1回も(エンジニアを)やってないんだろう? こっちは800回以上やってるんだ。俺の真似したら失敗するぞ」と痺れるお言葉をいただいたそうです。実際、クアトロキャストのエンジニアはビジュアルや演出がそれぞれ違ったのだとか。伊礼さんは演出家の指示でビジュアル撮影〜本番までの間に4回も髪型の変更があり、東山さんはアメリカンドリームのシーンでひとりだけ衣装のパンツが赤(他のエンジニアは黒)だったそう。指輪も好きなものを好きなだけ選ぶことができ、役者の個性を活かした演出だったと振り返ります。ちなみに伊礼さんは指輪を8個(!)つけていたため、「久しぶりの公演だと、どこにどの指輪をつけていたかわからなくなりそうだった」という裏話も。稽古中はとにかく自分の持っているものを全部出し、自分だけのエンジニア像を作り出すのにお二人とも苦労された様子。「ずっとオーディションみたい」「こんなに恥をかいた稽古場ないかも」という状況の中、東山さんと伊礼さんは新エンジニア同士結託してアイディアを出し合いながら、必死に役作りに取り組んでいたようです。



2022年の『ミス・サイゴン』を終えて今想うこと

 

あっという間に1時間半が経過するも、「まだまだこれからでしょう!」と伊礼さんがニヤリ。そこからはなぜかジョン役の上野哲也さんの話で大盛りあがり。上野さんは歌稽古の段階で立ち上がって動き出してしまう程熱い方らしく、トークを通じてサイゴンカンパニーのみなさんに愛されているキャラクターだということが伝わってきます。歌稽古といえば、座って楽譜を見ていても相手役と目が合うとついお芝居が始まってしまうそうで、配信視聴者の方からの「目が合うと始まっちゃうポケモンバトルみたいですね」というコメントに一同爆笑する場面も。



気付けば予定時間を30分オーバーして2時間が経過。最後は伊礼さんが「次の『ミス・サイゴン』やりますか?」とゲスト陣に問いかけます。


西川さんは「やりがいしかなかったし、やれる喜び100%だった」一方、「公演中は思考のどこかにずっとトゥイがいて、後半にかけてその感覚が増していく感じがあった」と言います。だからこそ大千秋楽を迎えたときはやりきった感が強く、帰り道はまるで「スカイブルー!」な爽快な気分だったのだとか。今回で一区切りではあるけれども、もし次があったら解消したい課題を既に台本に書き込んだことも明かしてくれました。


自身の大千秋楽から2日程経った頃に、「四角かったものがフッと丸くなる感覚があった」と言う海宝さん。「ひとつ自分の中では区切りがあって、次に進もう」という想いがあるようで「クリスという役は、次世代の人たちがチャレンジして新しいものを掲示していくことに価値があると思う」と、次の世代への期待を口にしました。


東山さんは、作品に携わってきた期間が「まるで追いかけ続けた恋愛をしていた気分」だと振り返ります。失恋をしたわけではないけれど、区切りをつける意味で髪をバッサリ切ったそう。「今はまだ次の『ミス・サイゴン』をやることは考えられないけれど、僕にできることがあるならば、これから新たに作品に加わる方々にバトンを繋げていきたいという気持ちはある」と熱く語ります。


伊礼さんは「次もやりたい。こんなに楽しい役は初めて」と明言。「緊張もプレッシャーもあるけれど、それ以上に楽しい!」とエンジニア役に確かな手応えを感じており、市村さんにも「(役を)30年手放さない理由がわかりましたよ」と話したそうです。「役者が持つキャラクターを全面に活かしながら、間違った方向にさえ行かなければ本当に自由に生きることができる」ところにエンジニアの魅力を感じるのだと言います。これは次の伊礼エンジニアにも期待してしまいますね!



作品への解像度がグッと上がるお話満載だった2時間の濃密なトーク。公演終了後だからこそ話せることも少なくなかったのではないでしょうか。この日の話を思い出すと、また違った見方で作品を楽しめそうですね。いつか上演される次の『ミス・サイゴン』を楽しみに待ちましょう!


 

執筆者:松村 蘭(らんねえ)

演劇ライター(取材・執筆・撮影・MC) 1989年埼玉生まれ/青山学院大学国際政治経済学部卒 仕事のお供はMacBookとCanon EOS 7D。いいお芝居とおいしいビールとワインがあるところに出没します。 オフィシャルサイト:https://potofu.me/ranneechan

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